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今週の政治ニュースの主役は、ゾーラン・マムダニがニューヨーク市長選で勝利したことだ。私の本『エリート過剰生産が国家を滅ぼす』の読者の多くが、「マムダニ旋風」を「高学歴資格保有のプレカリアート(雇用・将来・生活不安定層)」の完璧な実例だと指摘している(X上のこのコメントも参照)。 「高学歴資格保有のプレカリアート」とは何なのかについては、『エリート過剰生産が国家を滅ぼす』で説明している。 「『プレカリアート』という言葉を世に広めたイギリスの経済学者ガイ・スタンディングは、プレカリアートの中には高学歴資格保有の派閥が存在すると述べている。この進歩主義者の集団について彼は次のように説明している」 この層は、大学に行けば将来のキャリアが保証されると両親、教師、政治家から約束されて進学した人々で構成されている。彼らは入学直後に、宝くじを買わされたと気づき、将来への明るい展望を抱けないまま、多額の借金
日本にとって,観光客がいっそう問題になってきている.日本観光は増える一方で,日本に多大な収益をもたらしているけれど,京都と東京(人気1位2位の目的地)の都市インフラに巨大な負担をかけてもいる.ここまで大勢の人たちを道路も鉄道もさばけない.その一方で,アメリカその他の西洋諸国からやってくる多くの観光客たちは,お行儀がひどくて日本社会をピリピリさせている.観光客が押し寄せて人が過密になっているあまりに取り締まりもできないほどで,これが問題をさらに悪化させている. とはいえ,観光をムリヤリ制限すると,長らく停滞している日本経済に必要な収益(と外貨収入)がなくなってしまう.というか,名古屋みたいに注目されずにいる多くの都市は,むしろもっと観光客を求めている.日本政府は外国人旅行者を京都と東京から他のそういう都市に誘導するためにいろんな策を講じてきた.ただ,その効果はといえば,すごくまちまちだ. と
1970年代のサスカトゥーン〔カナダ、サスカチュワン州の最大都市〕で育った人間にとって、協同組合は日常生活の大部分を占めていた。食料品や金属製品、ガスは生協(Co-op)で買ったし、銀行は信用組合(credit union)を利用していたし、鶏の餌すらウィートプール〔カナダの小麦生産者の協同組合〕で購入していた。実際、私たち家族の思い出の中には、こんなエピソードがある。ある日、母が私たち子どもを後部座席に乗せたまま、車をガス欠させてしまった。母は、それまでの道中にあった「アメリカの多国籍企業」のガソリンスタンドを利用したくなかったので、なんとか生協のガソリンスタンドまで辿り着こうとしていたのだ。 西カナダにおける生協の大きな存在感は、20世紀におけるカナダとイギリスの左派のあり方に大きな違いをもたらした。イギリス労働党の綱領4条には「生産手段、分配、交換の共同所有」が謳われており、これは「
Photo by Pete Souza via Wikimedia Commons もっとも根本的な権利のために立ち上がらないといけない 「言論の自由が奪われれば,我々は口もきけず沈黙のままにどこぞへと導かれかねない.屠殺場にひかれていく羊のようなものだ.」――ジョージ・ワシントン 「我々の自由は報道の自由にかかっている.この自由は,制限されれば失われてしまう.」――トーマス・ジェファーソン 「なぜ言論の自由と報道の自由が許されるべきなのか? なぜ政府は(…)自らが批判されるのを許容すべきなのか? 私は,殺傷力のある武器による反対を許容しない.思想が命を奪う力は,銃より大いにまさる.なぜ,いかなる者も(…)政府を困らせる有害な意見を世に広めることを許されるべきなのか?」――ウラジーミル・レーニン ドナルド・トランプは,アメリカに言論の自由を復活させると約束しながら再び権力の座に戻ってきた.
ガラパゴスとは言うまでもなくエクアドル沖の諸島のことで、島名はそこに生息する最も有名な巨大なカメに由来している。ガラパゴス諸島はその隔絶性と、野生生物がその地域環境に適応して進化したことで有名だ。でも、日本だと別の意味がある。エンジニアで「オープンソース・ガイ」佐渡秀治は、2004年に冗談で日本を「ガラパゴス」と呼び始めた。もっとも、この言葉が一般で使われるようになったのは2007年になってからだ。その年、真に変革的な商品が発売され、日本は消費者向けテクノロジーの王座から引きずり降ろされた。iPhoneと呼ばれた商品だ。iPhoneの成功を受けて、専門家たちは日本が「ガラパゴス症候群」に苦しんでいると指摘するようになった。日本はあまりに内向きになり、国内市場の特殊性に焦点を当てすぎていて、グローバルな競争で遅れをとっている、と。 それまで支配的だった日本像は、西洋よりも少し早く未来に到達と
日本の首相官邸は、第219回国会における高市内閣総理大臣所信表明演説(2025年10月24日)の全文を公開した。 これは高市早苗氏が首相就任後に行った初の本格的な演説であり、これまで彼女が述べてきた「財政拡張を支持する」という一般的な主張を超えて、その具体的な内容をうかがうことができる。 しかし、その詳細は決して信頼を置けるものではない。 演説の導入部に続いて、高市首相は「経済財政政策の基本方針」について述べた。 ここで彼女は「『強い経済』をつくることが必要」とし、「財政支出」は経済の状態によって可能になると語っている。 より具体的には、次のように述べている。 「強い経済」を構築するため、…戦略的に財政出動を行います。これにより、所得を増やし、消費マインド(mindsets)を改善し、事業収益が上がり、税率を上げずとも税収を増加させることを目指します。 経済成長を通じて「所得を増やし」、そ
Photo by Cabinet Public Affairs Office via Wikimedia Commons 再び日本を高成長に導くには 日本の歴代総理大臣といえば,だいたい,地味で冴えないつなぎ役で,在任期間も長く続かない.ただ,たまに重要な指導者が現れて大きな仕事を成し遂げ,長く政権を続けることがある――2000年代の小泉純一郎と2010年代の安倍晋三が,近年の代表例だ.新しい首相がそういう例外的な総理になるかどうか,就任当初に見極めるのは必ずしもかんたんじゃない――安倍にしても,2000年代にはじめて政権を担ったときにはパッとしないまま短期で退場している.彼が日本を大きく変えたのは,2012年に再登場してからのことだ〔日本語記事〕. 就任したばかりの高市早苗がそういう変革の担い手になるという期待は高まっている.高市は,現代日本ではじめての女性指導者だ.とくに若者を中心に彼
近年の右翼ポピュリズムの台頭を懸念する学者気質の人間なら、この現象への理解を深めるために、自然と政治学の文献にあたることになるだろう。だが、いざ文献を読んでみると失望することになる。このテーマに関して政治学者の見解が割れていることにすぐ気がつくからだ(ポピュリズムに関する膨大な文献の適切なスナップショットを提供するものとして、このレビュー論文が挙げられる)。「ポピュリズムとは何か」に関してはそこそこの合意があるが、最も広く受け入れられている定義は、表層的かつミスリーディングだ。これは、ポピュリズムの力に対抗する上では気がかりなことである。 最も重要な点は、学者たちがポピュリズムの一番困惑させられる側面にきちんと向き合ってこなかったことだ。それは、インテリに批判されればされるほど、ポピュリズムが伸長するという事実である。結果、多くの学者は未だに、古い戦略を使って古いゲームをプレイし続けている
人々がビデオ・ゲームを楽しむ理由の1つは、普通の人がアクセスできるエンタメの中で、フロー状態を実現するのが抜群に得意だからだ。フロー状態というのはかなり捉えどころのない性質で、ユーザーを頻繁にフロー状態にするゲームもあればそうでないゲームもあるが、ゲーム・スタジオは、フロー状態を起こせるかこそがゲームの成功の鍵だと知っている。だが、道徳的には、フロー状態の追求はちょっとした問題を生み出す。多くのゲームにおいて、プレイヤーには人を撃つというタスクを与えられており、フロー状態を生み出すには、ほとんど想像しがたい規模の大量殺戮を行わせる必要があるからだ(ビデオ・ゲームを題材にしたテレビ番組や映画が直面する困難の1つがこれだ。「フォールアウト」や「ラスト・オブ・アス」を考えてみよ)。 残念ながら、暴力に耽るよう仕向けられると、普通の人(少なくとも、一定の良心を持ち合わせている人)はゲームを楽しめな
ワイマール共和国の崩壊は、残忍なナチス政権を誕生させ、世界史の転換点となった。本論文では、ワイマール共和国での社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)に関する通説〔民主主義による個人主義と共同体の崩壊がナチスを誕生させた〕に反して、人々が深く繋がりあった社会が良くない結果を招く可能性について論じる。 Bowling for Adolf: How social capital helped to destroy Germany’s first democracy Posted by Hans-Joachim Voth, Nico Voigtländer, Shanker Satyanath 05 August 2013 ワイマール共和国の崩壊は、残忍なナチス政権を誕生させ、世界史の転換点となった。本論文では、ワイマール共和国での社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)に関する通説〔民主主義による
このエントリは、Fusionで公開した記事の転載である。コメントをくれたサム・ゴールドマンに感謝する。 2025年のノーベル経済学賞は、イノヴェーション駆動型の経済成長の説明という業績に対して与えられた。フィリップ・アギヨンとピーター・ホーウィットは、内生的経済成長理論のパイオニアである。2018年にポール・ローマーがノーベル賞を受賞した際、彼らはノーベル賞を逃したと見られていた。だが今回、彼らの経済成長理論への先駆的貢献が、経済成長の歴史的プロセスとイノヴェーションに関するジョエル・モキイアの研究とともに賞を与えられた。このエントリで焦点を当てたいのは、そのモキイアの研究である。 モキイアの最初期の研究(1976年にExplorations in Economic History誌に掲載されたフォーマル・モデルなど)は、経済成長の問題に焦点を当てていた。だが、1990年に『富のてこ(Th
「AI によって消え去る人間の仕事は多い」と考えてる人は大勢いる.おそらく,この予測に誰より自信をもっているのは,実際にその AI をつくってるエンジニアたちだろう.たとえば,現代 AI の創出で要になった一人であるジェフリー・ヒントンは9年前にこう宣言した――放射線科医の育成をやめるべきだ.5年か10年も経てば,彼らは AI に置き換えられるだろう: 「いま放射線科医として働いている人は,まるで崖から空中に飛び出してしまったのに,まだ下を見下ろしていないコヨーテみたいなものだ(…).放射線科医の育成はすぐにやめるべきだ.5年以内に深層学習は放射線科医たちよりもうまくやるようになるのは完全に明白だ.(…)もしかすると10年かかるかもしれない.だが,すでに放射線科医は有り余っている.」 当時,まだ ChatGPT はまだ生まれていなかった.それでも,2016年時点の AI システムはすでに医
アギオン,ホーウィット,モキイアは最大の謎に挑んだ さてさて,今年もノーベル経済学賞について書く時期がやってきた.よかったら,2024年,2023年,2022年,2021年の記事も読んでみてね.〔日本語版: 2024年,2023年,2022年〕 「ノーベル経済学賞は『ホンモノの』ノーベル賞なのかどうかって飽き飽きする古い問いをのぞくと [n.1],基本的にこういう記事で語るべきことは3つある: 受賞した研究について その受賞が経済学業界について物語っていることについて その受賞がもっと広く世界の政治と政策について物語っていることについて というわけで,まずは受賞した研究について短く語ろう.今年は,文化と経済成長についての功績でジョエル・モキイアが,技術革新のモデル構築でフィリップ・アギオンとピーター・ホーウィットが,それぞれ受賞した.今回の賞の要点についてうまくまとめてある文章は,以下を読
今年のノーベル経済学賞受賞者の1人は、ノースウエスタン大学の教授、ジョエル・モキイアである。彼の名は、近代的経済成長(まずイギリス、次いでその他の国で生じ、過去数百年に渡り続いている、漸進的・持続的な未曽有の生活水準の向上)におけるイノベーションの重要性と切っても切り離せない。個人的な話をすると、産業革命の原因を解き明かす上でイノヴェーションの歴史を研究することが欠かせないと初めて気づかせてくれたのは、モキイアの著書『啓蒙の経済(The Enlightened Economy)』〔未邦訳〕だった。それ以来、私はイノヴェーションの歴史の研究でキャリアを築いてきた。 だが、今回のモキイアのノーベル経済学賞受賞で注目すべきは(そして、良い意味で驚きなのは)、モキイアの研究が、経済学のジャーナルに載るような類のものではない(それどころか、経済史のジャーナルの多くでももはや載らない)ということだ。過
お隣さんはキミの敵じゃない 保守系評論家で「ターニングポイントUSA」創設者のチャーリー・カークが,ユタ州のライブ討論会に参加している最中にむごたらしく暗殺された.これを書いている時点で,犯人は捕まっていない.容疑者が拘束されたと FBI 長官カシュ・パテルがツイートしたけれど,しばらくして,その容疑者は釈放されて,捜査を継続しているとあらためてツイートした: カーク射殺犯が何者かわかっていないので,動機は知るよしもない.もしかすると,去年ドナルド・トランプを狙った2人の暗殺犯みたいに,混乱していて政治的に理解不可能な狂人かもしれない.あるいは,政治的な左翼でカークの保守政治思想を憎んでいる人物かもしれない.そういう人は山ほどいる.あるいは,政治的な右翼で,カークが十分に右翼らしくないと考えている人物かもしれない.たとえば,「グロイパーズ」という白人至上主義者たちからカークはずいぶんと憎悪
今週の初めに投稿した炭素価格付けについてのちょっとした記事〔原文はここ、邦訳はここで読める〕は、実は、私が本当に論じたかったテーマについて書くための地ならしだった。そのテーマとは、少なくとも過去5年間にわたり、連邦政府の炭素税に関するコミュニケーション戦略全体を構成してきた、大変いらだたしい2つの論点だ。1つ目は、炭素税は「あらゆるものへの税」である、あるいは「あらゆるものの価格」を上げるだろうという主張。2つ目は、炭素税は「雇用破壊」をもたらすだろうという主張だ。 こうした議論が腹立たしいのは、どちらも完全に間違った議論であるのに、ぼんやりと正しく聞こえることだ。それゆえ、政府がこの2つの論点を繰り返しているという事実には、現代の「ポスト・トゥルース」的な政治環境のあらゆる特徴が現れている。政府は、もはや自らの活動や政策を擁護しようとすらせず、ターゲットとなる有権者層に対して効果的だと判
斎藤の提案していることは、もう既に全部聞いたことがあるのだ。私たちは、どう見ても上手くいかないアイデアについて、何度も何度も同じ議論を繰り返さなければならないのだろうか? 「新スタートレック(Star Trek: TNG)」の中でも私のお気に入りのエピソードの1つは、不吉なシーンで幕を開ける。宇宙船エンタープライズ号が別の連合の宇宙船と衝突し、大爆発を起こして全員が死亡してしまうのだ。だが幸運なことに、両船の衝突は異常時空の境界で発生していたため、エンタープライズ号はほぼ1日前に時間を遡ることとなった。こうして、クルーたちが日々の活動を送り続け、同じ選択パターンを繰り返して大惨事に至り、それを何度も何度も繰り返し続けるという「因果ループ」が生じた。 この繰り返しは永遠に続くことになったかもしれない。だが、クルーのメンバーの一部がデジャブを覚え始めた。そして、ループが繰り返されるほどにその感
先週末、ロジャーズ・コミュンケーションズ〔カナダの大手通信企業〕の前CEO、ナディル・モハメド(Nadir Mohamed)が亡くなったという悲しいニュースが入った。モハメドは、カナダを代表する大物の1人だった。私自身は彼と知り合いだったわけではない。だが一度だけ、病院の待合室でたまたまモハメドと一緒になる機会があった。それは、私が機会がある度に語りたくなるような、大変愉快なエピソードであった。以下の文章は10年前、ワルラス誌(The Walrus)に掲載されたものだが、ワルラスのウェブ版はひどい出来なので、ここで再掲してもよいだろう。(念のため言っておくが、この記事のエピソードは10年以上前の話であり、モハメドの死因となった病気とは無関係である。) ナディルと私:待合室での「強制的連帯」 去年の夏、私は「カナダ的な場面」に出くわした。それはトロントの病院の待合室でのことだった。待合室は殺
もう何年も,ぼくは福祉国家の「とにかくみんなにお金あげろ」説を大きく掲げてきた.このアイディアを支持する記事もたくさん書いてる.この説を支持する理由は次のとおり: 現金給付の方が他の種類の給付よりもずっと管理・実施しやすい. 無条件の現金給付は労働市場に大して打撃を与えないのを見出している経済研究はたくさんある――つまり,小切手でお金をもらうようになってもたいていの人たちは働くのをやめたりしないんだよ.また,多くの保守派が恐れているのとちがって,薬物やアルコールに浪費しがちなわけではないのも見出されている. 無条件現金給付なら,他の福祉プログラムの穴から落ちてしまう多くの人たちにも届けられる――たとえば,なんの所得も稼げない人たち(なので勤労所得税額控除を得られない人たち)や,子供のいない人たち(なので児童控除を得られない人たち)も,無条件現金給付なら受けとれる. 1990年代後半,アメリ
トップ経済学者たちのなかにも,「アメリカ人の一定層で AI による雇用破壊が起きている」と主張する人たちがいる.彼らは正しいだろうか? 「AI は人々の仕事を奪っているのか」をめぐる論争は,永遠に続くかもしれないし,いずれ終わるかもしれない.現に AI が大勢の人たちの仕事を奪ったなら,そこで論争は終わる.その時点で一方の側が明らかに勝ったことになるからだ.でも,AI が大勢の人たちの仕事を奪ってないときには,論争の決着はつかない.それでもなお「もうすぐみんなの仕事が奪われるぞ」って言い続ける人たちが大勢現れるだろうからね.ときに,今後の雇用の見通しがみんなよりも悪い一部の層を見つけて,「ほら,これこそ AI による一大雇用破壊の始まりだ」とその手の人たちが主張することがある.彼らが間違ってると証明できる人なんて,いる? つまり,〔上の話に合わせていいシナリオとわるいシナリオを分けると〕い
このブログでは通常、何か個別の事件が起こっても、それについてコメントするのを控えている。私が関心を寄せているのは、個々の事件ではなく、もっと広範な社会的トレンドにあるからだ。また、特定の事件についての理解は、新しい情報が入手できるようになるにつれて、変化することも多い。この数日間のチャーリー・カークの暗殺事件についての混乱した報道(そしてその訂正)は、その好例だ。この記事では、暗殺事件を扱うが、内情を打ち明けると、最近になって暗殺事件が増加していることと、その広範な社会的背景について執筆するつもりだったからであり、今回の悲劇の直後に公開されたのは偶然だ。 我々は、「アメリカ政治暴力データベース(USPVDB)」を作成している。このデータベースによると2020~2024年の5年間で7件の暗殺事件が発生している。これは〔暗殺が激しかった〕1860年代後半の半分に過ぎないが、以前のピークである1
サスカチュワン州首相のブラッド・ウォール〔右派で、市場寄りと思われている政治家〕は、市場が好きではないらしい。少なくとも私と同じような仕方で市場を愛しているわけではないようだ。先日、ウォールが気候変動について語っているのを聞いて、私はポリシー・オプション誌に大昔に寄稿した記事のことを思い出した。この記事は、「プロ・マーケット(市場派)」と「プロ・ビジネス(ビジネス派)」の違いについて論じたものだ。ウォールのような保守系政治家の話を聞いていると、この区別を用いて彼ら彼女らの議論を分類するのは依然として有益だと思われる。例えば、ウォールが炭素価格付けに対してとっている立場は、プロ・ビジネスの保守系政治家の完璧な例となっている。つまり、彼はプロ・マーケットではないのだ。 以下は、そのときの記事にある、プロ・マーケットとプロ・ビジネスの区別を説明した部分だ。 プロ・マーケットの人々が資本主義を熱心
社会構築主義は近年、評判が良くない。その大きな理由は、セックスとジェンダー・アイデンティティを巡る議論で社会構築主義が利用(そして誤用)されてきたためだろう。これは残念なことだと私は思っている。なぜなら、構築主義的な分析は、適切になされるならば、世界に関する重要な洞察を与えてくれるものだからだ。どんな人間も、社会環境の「自然らしさ(naturalness)」をひどく高く見積もり、実際には社会的な取り決めでしかないものを実体化(reify)して、客観的に存在するもののように扱ってしまう傾向を基本的に持っている。構築主義の古典的な仕事の多くは、私たちが自然なものとナイーブに受け止めがちな社会的世界のある側面を取り上げて、それがいかに、特定の時期の特定の文化的文脈において形成されたものであるかを示すものだ。思想史や他文化の研究に真剣に関心を持っている人なら誰でも、学びを深めるほどに社会構築主義者
貧しい国々はどうにかして豊かになるしかない.これは,実地で立証済みの方法だ. Photo by Fahad Faisal via Wikimedia Commons 今日はアメリカ政治について書く気でいたんだけど,ネット上の議論でスウェットショップが話題にのぼったので,かわりにこれをとりあげよう.ソーシャルメディアで経済について興味深くて中身のある議論を交わす機会なんて滅多にない.だから,いざそういうネタが出てきたときにはすかさず楽しませてもらうことにしてるんだ. 議論の発端は,アメリカンイーグルのブルージーンズ広告だった.その広告で女優のシドニー・スウィーニーが「いいジーンズ」(good jeans) をもってるというダジャレが使われているのを,ソーシャルメディアで進歩派の一部が見とがめた.これは「白人が遺伝的に優れている」のを意味してるというのが,彼らの解釈だ.それからずいぶんとバカげ
最も裕福な資本家と最も裕福な労働者はますます同じ人々になってきている。 これを、2019年の拙著『資本主義だけ残った』では「新しい資本主義」と呼んだ。何が新しいのだろう? 19世紀のヨーロッパの経済学者が提唱した古典的資本主義では、資本主義社会は2つの階級からなっているとされた。資本(マルクス主義の定義では「生産手段」を所有する)階級と、資本を所有せず生存のために資本家に労働力を売る労働者階級であるこれは粗っぽい分類だが、間違いではなく、19世紀から20世紀初頭の先進国経済の実像の素描となっていた。(後進国経済では、土地所有と、土地所有に結びついた政治権力が大きな役割を果たしていた)。 この古典的資本主義は、20世紀になり、多くの人が新しい「管理・経営(マネジメント)」階級と名付けたものの出現によって変貌を遂げた。管理・経営者(マネージャー:生産手段を所有せず、単純労働者でもなく、フロリダ
どんな人たちがどんな人たちと結婚しているのか――これについては,人気アイディアがいろいろある.ひとつ挙げると,「金持ちの男はもっぱら身体的な魅力のある妻を望み,相手の社会的地位や教育には頓着しない」というアイディアがある.また,「パワーカップルは共稼ぎする傾向がある」というアイディアもある. 実は,このどちらのステレオタイプも間違ってる.ライマン・ストーンが家族研究所 (the Institute for Family Studies) の記事で示しているように,金持ち男は教育水準が高くて高収入の女性と結婚しがちで,その女性は結婚後に主婦になる.グラフを3つほど示そう: 「高所得男性の結婚相手は教育水準の高い女性が圧倒的に多い」(Source: Lyman Stone) 「高所得男性の結婚相手は高所得女性が圧倒的に多い」(Source: Lyman Stone) 「高所得男性の結婚相手は専
次の100年間で、カスカディアとサンアンドレアスの2つの断層のうち1つまたは両方で地震が生じ、アメリカの西海岸に、ヒロシマの原爆の3万から6万倍に等しいエネルギーが放出される確率は、約70%である。 この2つの断層の大規模な破壊が生じた直近の事例は、カスカディア断層では1700年、北部サンアンドレアス断層では1906年、南部サンアンドレアス断層では1857年のことである。その当時、特に大きな影響を被った地域には、合計でおよそ55万人しか住んでいなかった。現在では、同じ地域に約3,500万人が暮らしている(ヘイワード断層も、ベイエリア直下に位置し、いつ破壊が生じてもおかしくない状態であるため、極めて危険である。だが本稿では、カスカディアとサンアンドレアスという2つの巨大断層に議論を絞ることとする)。 こうした断層破壊の中でも最も壊滅的な被害をもたらしたのは、1906年のサンフランシスコ地震で
「AI によって大量の人たちが雇用を奪われて,経済でやるべき有用なことをなくしてしまう」というのは,事実上の通説みたいになっている.みんな,あまりにこれを確信していて,「ほらやっぱりそうなってるじゃないか」と信じる材料になる兆しがデータに現れると,すぐに飛びついている.ちょっと前に,経済学者たちも人気評論家たちもこの件に関して行きすぎた予測をしている理由について記事を書いた. ともあれ,Economic Innovation Group のサラ・エックハートとネイサン・ゴールドシュラグがこの件に関する新しい報告書を発表している.これによると,ぼくらが知りうるかぎり,AI はまだ雇用を奪っていない――少なくとも,測定できる規模ではそうなってない. エックハートとゴールドシュラグは,まず,いろんな仕事での AI 曝露度を予測する数値からはじめている.そうした数値を見ても,どの仕事が AI に取
拙著『エリート過剰生産が国家を滅ぼす』では、テーマの一つとしてウクライナを取り上げた。2022年末に最終稿を出版社に提出してからも、私はウクライナ紛争の経過についてのニュースを追いかけている。なぜなら私の評価――ウクライナ国家(金権政治国家)と、そこで起こっている戦争(NATOとロシアの代理戦争)が、歴史の推移によってどこまで妥当なのか確かめたかったからだ。なので、2023年初頭の時点で、この紛争について見解や将来予測が、執筆者やそのイデオロギー的背景によって正反対になっていたのは興味深かった。(アメリカの公式な立場を反映している)主流派メディアは、極めて〔ウクライナ勝利で〕楽観的だった。もっとも、アメリカ人のアナリストの多くや、元軍人・諜報機関関係者らは、全く異なる見解を持っていた。 当時、こうした予測の違いを、実証的にテストできることに私は気付いた。私のブログ(今はSubstackだが
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