日本社会も動かす?『女性の休日』が上映されるまで 山内マリコ対談

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構成・佐藤美鈴
【動画】山内マリコさんと森下詩子さんの対談=浅野哲司撮影
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 作家の山内マリコさんの連載「永遠の生徒」。今回は、映画『女性の休日』を配給するkinologue(キノローグ)の森下詩子さんと語り合います。「女性の休日」は、ジェンダー平等が進むアイスランドで半世紀前、女性たちが休むことでその存在感を示したムーブメント。その軌跡を追った映画が10月に公開され、日本でも様々な動きが起き始めています。この作品が日本で劇場公開されるまでにどのような巡り合わせがあったのか。ミニシアター文化を「ひとり配給」という形で支える森下さんの仕事に、山内さんが迫ります。

Re:Ron連載「永遠の生徒 山内マリコ」第9回【対話編×森下詩子】

映画「女性の休日」とは

1975年10月24日、アイスランドの女性の90%が仕事や家事を一斉に休み、女性がいないと社会が回らないことを示したというムーブメント「女性の休日」。アイスランドではその後、80年に女性大統領が誕生し、ジェンダーギャップ指数は16年連続1位に。今年10月25日に日本公開された映画「女性の休日」では、当時の映像、関係者の証言にアニメーションも交えながら、その道のりを振り返る。

 【山内マリコ】 アイスランドはジェンダーギャップ指数16年間ずっと1位、というのは有名ですよね。なぜそういう国になったかというと、昔、女性たちがストライキを起こしたからなんだ、という話は聞いたことがあったんです。でもそのストライキが一体どんなものだったか、規模感も、その様子も、具体的にはまったく知りませんでした。映画には、女性たちがストライキをどう企画して国中に広めていったのか、当事者へのインタビューもたくさんありました。みんなすごく楽しそうに語っていて。私もそのお祭りに参加したい!とワクワクした気持ちで拝見しました。

 リアルタイムでは小さな国で起きた「ニュース」だったことが、50年経ち、世界中の女性にとって重要な「歴史」になった。こういう出来事をちゃんと映画としてまとめることの意義深さを感じました。こんなすごい作品、どうやって見つけたんですか?

 【森下詩子】 独立してフリーで配給を始めてからは北欧の映画を買っていて、昨年9月にスウェーデンであった映画祭で見つけました。実は元々のタイトルは“The Day Iceland Stood Still(アイスランドが立ち止まった日)”で、すぐには分からなかったんですけど、説明を読んだらこれはもしかして……!と思い、上映を観に行ったのが最初でした。

 【山内】 映画祭でたまたま見つけたのがこの映画だったと。初めて観たときはどう思いましたか?

 【森下】 やっぱりすごく高揚感があって、上映後のプロデューサーのQ&Aで、韓国人の観客がめちゃめちゃ興奮していたんです。やっぱりそうだよね!と思いました。来年が50周年か!と気づき、やる意味があると思いました。

 しかも、たまたま私が独立して1作目に買った映画のセラー(売り手)が扱っている映画だったんです。映画って、巡ってくるタイミング、縁みたいなものがある。今回はすごくそれを感じました。

 【山内】 そこからすぐに交渉されたんですね。

 【森下】 でも、すでにNHKに売ってしまったと分かって、ガーン……!となりました。映画の配給の権利って、映画館、映画館以外の上映、テレビ、DVD、配信とまとめて買うことが多いんです。この場合、テレビの権利が先に売れていたということですが、NHKの権利期間が1年だったので、何とかなるかな、と。

 【山内】 確かにNHKでも放送されていたみたいですが、どう違うのですか?

 【森下】 NHKでは「ドキュランドへようこそ」「BS世界のドキュメンタリー」で計数回放送されていたんです。でもやっぱり50周年だし、映画館で観たい!と思いました。

 【山内】 NHKで放送されるのは大きなことですが、見逃さないようチェックするのがなかなか難しいですよね。見逃したー!と後悔した方もたくさんいらっしゃると思います。比べると映画の上映はフェスティバルみたいなものですね。なんとか映画を知ってもらおうと力を入れて宣伝するし、今はSNSの感想で草の根的に広がってヒットにつながることも多い。今回の作品は特に、そうやってみんなで盛り上げながら映画館で観るのにふさわしい作品だな、と。

 【森下】 テレビ放送も評判が良かったんです。テレビ版は吹き替えで、50分くらいに編集された別バージョンなので、改めて映画で観てもらいたいなとも思います。

 【山内】 そうですね、そちらは壮大な予告編と解釈していただければ(笑)。無事に映画を買い付けられたら、いつごろから準備を始めるものなのですか?

■50年となる10月、映画館で上映したい!

 【森下】 50年となる10月にやりたいのは決まっていたので帰国してすぐ、イメージフォーラム(ドキュメンタリーを多く扱う東京・渋谷のミニシアター)さんに相談し、今年に入ってから、パブリシスト、デザイナー、予告編制作者などにどんどんお願いして進めていきました。アイスランド大使館の方ともやりとりしていて、ちょうど5月にアイスランドの大統領が大阪・関西万博に合わせて来日して、色んな場で「女性の休日」の話をしてくれました。

 【山内】 そのあたりから私の周りの友人知人たちが、この映画を広めたい!と名乗りを上げはじめました。ちょうどこの間、日本ペンクラブの女性作家委員会でも試写会を開催しました。日本でも何かムーブメントが起きないかと願っているところです。

 【森下】 以前アイスランドに取材に行って、この映画の上映をしたいと思っていたジャーナリストの浜田敬子さんたちに出会い、山本恵子さんが女性ジャーナリストやアクティビストのネットワークに呼びかけてくださって8月に試写会を開いたんです。夜だったこともあって、そのあとにそれぞれ食事に行って、「何かやろうよ!」という声が何グループかから出てきたようで。

 【山内】 同時多発的に生まれてきた、と。

 【森下】 自然発生的な声が浜田さんたちのところに集まって、オンラインでミーティングを重ねて、今はプロジェクトの実行委員が60人ほどいるみたいです。「女性の休日」を日本でもやりましょう!というプロジェクトですが、ゆるりとつながりながら、それぞれが自発的にできることをやる形で、まずはこの映画を観よう!ということで色々と動いてくださっています。

 各地で映画を観て対話する場が予定されていて、3月8日が国際女性デーで日曜ということもあり、その2日前の3月6日の金曜に何かできるといい、という話が出ています。

■日本で同じようなことはできない?

 【山内】 本家のアイスランドも、1975年にはたった8週間で準備しているんですよね。

 【森下】 会議で話したのが6月で、本格的に動き出したのが8週間前と映画の中で描かれています。

 【山内】 8週間でこんなにできるんだ、と驚きました。情報を広める手段も、知り合いに電話したりと、手作り感がある。そうやって国中に広めて、女性たちをやる気にさせる熱量を巻き起こした。あの文化祭感は本当に胸が躍りますね。

 人口の規模が違うので、日本…

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この記事を書いた人
佐藤美鈴
デジタル企画報道部|Re:Ron編集長
専門・関心分野
映画、文化、メディア、ジェンダー、テクノロジー