有名なわりに完読しにくい本というものがあります。『レ・ミゼラブル』や『ドン・キホーテ』などはその代表例でしょう。これらは長大な作品なので、原作をすべて読めないのも無理はありません。ですが、『ガリア戦記』はそれほど長くないのに、完読率はあまり高くなさそうです。その証拠に、googleにガリア戦記と入れてみると、検索候補に「難しい」「つまらない」などが出てきます。とはいっても、『ガリア戦記』を読み通せないのは、決してこの本がつまらないからではありません。この本が現代の日本人向けに書かれていないからです。なので、読み通すには多少の工夫が必要になります。今回は、『ガリア戦記』を読了するためのコツを六つ紹介します。六つすべて実行しようとするとまた挫折するかもしれないので、取り組みやすいものだけで十分です。
1.読みやすい翻訳を選ぶ
これはかなり重要です。『ガリア戦記』といえば岩波文庫のものが有名ですが、これを出版直後に読んだ小林秀雄は「訳文はかなり読みづらいものだった」と書いています。実際、岩波版の訳は一文がかなり長く、とうてい読みやすいとは言えないものです。これを読むと挫折する可能性が高まりますが、重要な戦いの陣形図がついているという捨てがたい長所もあります。しかし百人隊長を「百夫長」と訳すなど、現代人の感覚からすると翻訳が古く感じる箇所もあるため、読むならそういうものと覚悟する必要があります。
ともあれ、訳文は読みやすいものを読むのが無難です。一番のおすすめはPHP文庫版です。これは解説が131ページもあり、ここを読めばカエサルの経歴やガリアの地理的特徴・『ガリア戦記』の成立事情・ローマ軍の基本装備などがわかります。これらを頭に入れておくだけで、本文に入りやすくなります。『ガリア戦記』は八巻までありますが、この本では巻ごとに地図が入り、カエサルの行軍経路が示されているので戦況の把握にも便利。訳文も読みやすく、頭に入りやすいものです。
2.ローマ人との情報格差を埋める
当然のことですが、『ガリア戦記』はカエサルが同時代のローマ人に向けて書いたものです。2000年後の私たちに向けて書かれてはいないので、当時のローマ人が常識として知っていたはずのガリアの部族名や地理・ローマ軍の構成などの知識を補っておかないと、読むハードルが上がってしまいます。カエサルの文章はわかりやすく書かれているのですが、ガリアの部族名などの固有名詞が次々に出てくるため、こちらは早口のガリアオタクに延々と戦争の話を聞かされている感覚に陥りがちです。ですが、事前にある程度ガリアの重要な部族名の知識を入れておくことで、本文が読みやすくなります。ローマ人のために書かれた本を読むには、こちらがローマ人に近づく必要があります。ガリアの重要な部族や『ガリア戦記』の重要人物については、この記事の後半で紹介しておきます。
3.地図を手元に置いておく
『ガリア戦記』が読みづらい理由のひとつに、「今どこにいるのかがわからない」があります。古代の地名は現代とは異なり、ライン河はレヌス河、オルレアンはケナブム、ブールジュはアヴァリクムなどと記されています。さらに、多くの部族が登場しますが、それぞれの部族がどこにいるのかも、読者は知りません。なので本文を読むだけでは、ローマ軍の行動をイメージしづらく、内容に入りこめないのです。
ここを補うには地図が必須です。一枚だけでもいいので、ガリアの主要な部族の配置と地名が書かれた地図をそばに置いておきましょう。小池和子『カエサル 内戦の時代を駆けぬけた政治家』の92ページの地図がかなりおすすめですが、PHP文庫版『ガリア戦記』なら、巻ごとのローマ軍の行軍経路が記されているので、どの部族とどんな順番で戦ったのかがよくわかります。
4.先にダイジェスト版を読む
『ガリア戦記』はいきなり挑戦するのはなかなかハードルの高い書物です。ですが、先に入門書的なものを読んでおけば、読みやすさは格段に違ってきます。『ガリア戦記』入門としておすすめなのは、『カエサル 内戦の時代を駆けぬけた政治家』の第三章「ガッリア総督カエサル」です。この章は実質、『ガリア戦記』のダイジェストになっていて、要所要所で著者の解説も入ってくるので、先に読んでおくと本文の理解を助けてくれます。
ただし、この三章を読むのも楽とはいえません。部族名や人名・地名など固有名詞が多いうえ、著者がラテン語の読み方に近い表記にしたためか「エブローネース族」「ウェルキンゲトリークス」など固有名詞が読みにくくなっているからです。とはいえ、ここを読むことで『ガリア戦記』の雰囲気をつかめますし、読み通すことで重要な部族名や人名をある程度覚えられれば、本文に入りやすくなることも確かです。読むのが必須とは思いませんが、『ガリア戦記』入門として役立つ一冊として紹介しておきます。全体を通して読めば、カエサルの生涯を理解することもできます。
5.小説のような面白さを期待しない
『ガリア戦記』は世界的な名著だから面白いだろう、と過度な期待を抱くのは考えものです。カエサルはローマ市民に自分の業績を示すために遠征記を書いたのであって、小説を書いたわけではありません。基本、淡々とした戦況報告がつづく本だと思ったほうがいいでしょう。それでも『ガリア戦記』が面白いといえるのは、これを読めば「ローマ軍のリアル」がわかるからです。
たとえば、『ガリア戦記』最初の戦いであるビブラクテ近郊の戦いでは、ローマ軍が丘の上からヘルウェティイ族へ槍を投げています。ここで、「その槍は穂先が曲がってしまい、抜こうにもなかなか抜けない。左手を拘束されたガリー人は、いつもの動きができず、何度も引き抜こうとむなしく試みたすえ、多くが盾を投げすて、無防備のまま戦うこととなった」という描写が出てきます。これは、ローマの投げ槍が盾に刺さると抜けにくくなるよう工夫されていることを示しています。盾で防がれても、ガリア人は槍が抜けず重くなった盾を捨てるしかないため、防御力を削ぐことができます。このような戦いのディテールがよくわかるのが、『ガリア戦記』の醍醐味なのです。
とはいえ、『ガリア戦記』に小説的な面白みがまったくないわけでもありません。淡々とした記述のなかに、突然少年ジャンプ的な展開が挟まることもあります。たとえば第五巻では、ネルウィイ族に襲われたキケロの陣営で、百人隊長プッロとウォレヌスが大活躍する場面があります。この二人はふだんは昇進を競うライバル同士なのですが、このときは二人は互いの危機を救い、大喝采を浴びています。「投げ槍の一本がプッロの盾をつらぬいて剣帯に突き刺さり、鞘の位置をかえた。このため、プッロが右手で剣を抜くのが遅れ、敵に包囲されてしまった」と描写も具体的で、絵が浮かびやすい書き方になっています。盛り上がりに期待しないほうがこのような場面を楽しめるので、物語的な楽しみを期待せずに読むのがおすすめです。
6.盛り上がる個所を知っておく
『ガリア戦記』は小説ではないと書きましたが、それでも盛りあがる個所はいくつもあります。そこを事前に知っておけば、早くたどり着こうと退屈な部分にも耐えやすくなります。ここでは、『ガリア戦記』の面白ポイントをいくつか紹介しておきます。
・カエサルの演説(第一巻四十節)
ここではゲルマン人の襲撃におびえる兵士を励ますカエサルの演説が読めます。カエサルは言葉を飾らず、論理的に兵士を激励しているのがよくわかります。「恐れることはない。汝らの勇気とこのカエサルの采配とがあるではないか」というカエサルの叱咤は、先にヘルウェティイ族を破った実績に裏付けられているので、実に説得力があります。
・サビス河の戦い(第二巻十九~二十六節)
ここでははじめてガリア人相手に苦戦するカエサルの様子を知ることができます。ベルガエ人のなかでも屈指の勇猛さを誇るネルウィイ族に攻め込まれ、多くの百人隊長が戦死するほど追い込まれるなか、カエサルがどう軍団を立て直すかが見どころ。カエサルの指揮ぶりがかなり具体的にわかる戦いです。
・アンビオリクスの策謀(第五巻二十七~三十七節)
エブロネス族の策士・アンビオリクスがローマ軍を翻弄する第五巻。ここは全体のなかでもかなり面白く、小説のように読める箇所です。練度でも装備でもローマに劣るガリア人がどうローマ軍に立ち向かうのか、ローマの指揮官たちはこれにどう応じるのか……迫真の駆け引きがここにはあります。アンビオリクスの戦い方も詳しく書かれていて、彼が指揮官としても有能だったことがわかります。彼を相手取ったローマ軍の命運は必見。
・キケロの奮闘(第五巻三十九~四十五節)
アンビオリクスはベルガエ人一の戦闘民族・ネルウィイ族を説得し反乱に踏み切らせますが、このネルウィイ族が襲いかかったのがキケロの冬営地です。このキケロは文人として名高いキケロの弟です。攻城櫓や破城鉤など、ローマ軍と同じ攻城兵器を使ってくるネルウィイ族と粘り強く戦うキケロの奮闘ぶりが見どころですが、この箇所では先に書いた百人隊長プッロとウォレヌスが助け合う姿も読めます。
・アレシアの戦い(第七巻六十八~八十九節)
『ガリア戦記』中もっとも有名で、ガリア人とローマ軍の最終決戦です。ウェルキンゲトリクスが籠城を決めた都市アレシアをローマ軍は完全に包囲しますが、この包囲を外から破ろうとするガリア人とローマ軍との戦いが最後の見せ場になります。ここではカエサルの副官中もっとも有能なラビエヌスが苦戦するほどの激しい戦いになりましたが、ここでカエサルがどう動くかが必見。簡潔な記述のなかに、カエサルの覚悟が見えます。
覚えておきたいガリアの部族
『ガリア戦記』には数多くの部族が登場します。重要な部族名を知っておけば、ローマ人との情報格差を埋めることができ、『ガリア戦記』で挫折しにくくなります。ここでは最低限知っておいた方がいい部族について記しておきます。
・ハエドゥイ族
ハエドゥイ族は全ガリア中、もっともローマに友好的な部族です。ガリアでの戦争は、このハエドゥイ族の領土をヘルウェティイ族が荒らしたことからはじまりました。カエサルはハエドゥイ族の力を当てにしており、他のガリアの部族と戦わせたり、ハエドゥイ族の兵士を連れていたりするのですが、穀物の供出を拒否するなど、時おり不穏な動きも見せます。このハエドゥイ族が最終的にどうなるのかも『ガリア戦記』終盤の見どころのひとつになります。
・レミ族
ハエドゥイ族と並ぶローマに友好的な部族ですが、不穏な動きを見せない分、むしろハエドゥイ族より信頼できる味方です。レミ族はガリア北方のベルガエ諸族について、重要な情報をもたらしてくれます。この情報は二巻の最初のほうに出てきますが、部族ごとの特徴や兵力が書かれており、非常に興味深い内容となっています。
・ネルウィイ族
このレミ族の情報では「ベルガエ人のなかでもっとも勇ましい」とされているのがネルウィイ族です。五万の兵力を持ち、軟弱にならないためにワインなどのぜいたく品を輸入しない禁欲的な部族で、ガリアにはめずらしく歩兵部隊しか持たないという特徴もあります。かわりに垣を作って騎兵をふせぐ技術を持ち、戦争では恐ろしいほどの勇猛さを見せます。サビス河の戦いでは、一時カエサルを追い詰めるほどの活躍を見せました。
・ウェネティ族
ガリアでは珍しく、水上戦闘に長けている部族です。ウェネティ族の町は岬の先端にあり、潮の干満のため接近しにくく、しかもいざというときは船で人や物資を避難させるので、攻略のむずかしい相手でした。しかもウェネティ族の船は頑丈で、ローマの軍船が衝角をぶつけても壊すことができません。この難敵にどう立ちむかうかが、『ガリア戦記』中盤の見どころのひとつでもあります。
・トレウェリ族&エブロネス族
セットで紹介するのは、トレウェリ族のインドゥティオマルスとエブロネス族のアンビオリクスが協力してカエサルに対抗するからです。インドゥティオマルスはフィクサー的な動きを好み、ライン河の向こうのゲルマニア人を煽動したり、周辺のガリア人を炊きつけたりしますが、最初に乗ってきたのがエブロネス族です。知略に長けたアンビオリクスはローマ軍にある策を仕掛けるのですが、この後ローマ軍がどうなってしまうのかが『ガリア戦記』五巻の最大の見どころになります。
・アルウェルニ族
ガリア最大の英雄・ウェルキンゲトリクスを産んだ部族です。フランス中部のオーヴェルニュ地方に住んでおり、この地名の語源にもなっています。もともとはハエドゥイ族とガリアの覇権を争うほどの有力な部族で、中心となる都市ゲルゴウィアはカエサルの攻撃を受けることになります。このゲルゴウィアの戦いではカエサルがウェルキンゲトリクス相手に苦戦することになりますが、この戦いのゆくえは『ガリア戦記』終盤の見どころのひとつになります。
・ベッロウァキ族
レミ族情報によれば、「ベルガエ人のうち、武勇でも権威でも人口でも圧倒的」なのがこのベッロウァキ族です。そのせいか独自に動きたがり、ローマ軍との最終決戦であるアレシアの戦いにも兵士を送ってきませんでした。ベッロウァキ族の活躍が目立つのはアレシアの戦い後の八巻で、彼らがアトレバテス族の王コンミウスと組んでカエサルと戦う様子をくわしく知ることができます。
知っておきたい重要人物
『ガリア戦記』の登場人物は数多いですが、重要人物はかなり限られています。以下に大事な役割を果たす人物を何人か紹介しますが、これらの人物の活動に注目しつつ読むことで、『ガリア戦記』を読む楽しみも増すかもしれません。
・ラビエヌス
『ガリア戦記』にはカエサルの副官が何人か出てきますが、その中でもっとも有能なのがこのラビエヌスです。的確なタイミングで援軍を投入してカエサルの危機を救ったり、カエサルのブリタンニア遠征中に留守を守ったり、単独でガリア人の武将を何人も討ち取ったりと、その功績は数多く、失敗は一度もありません。このラビエヌスですら苦戦していたのが『ガリア戦記』の最後を飾るアレシアの戦いだったことから、これがいかに激しい戦いだったかを知ることができます。
・ドゥムノリクス
ハエドゥイ族のなかの反ローマ派のリーダーです。ハエドゥイ族はガリア中でもっともローマと親しい部族ですが、カエサルがハエドゥイ族に命じた食糧調達がうまくいかないのは、ドゥムノリクスが邪魔していたからです。親ローマ派の兄ディウィキアクスをしのぐ人望を持ち、大胆なドゥムノリクスは最後はカエサルに逆らい、自分が「自由な民族の自由な民」であることを訴えますが、結局ローマ軍には勝てませんでした。ドゥムノリクスの存在は、ローマがガリア人の自由を押しつぶす存在だったことを読者に教えてくれます。
・サビヌス
サビヌスもカエサルの副官の一人です。三巻では彼がウェネッリ族相手にローマ軍は臆病だと思わる策を仕掛け、油断したところで大勢を討ち取る場面があります。このように本来は有能なはずの人物ですが、このサビヌスがガリア人のアンビオリクスの罠に引っかかってしまうのです。結果としては大失態を犯してしまったサビヌスですが、それだけアンビオリクスの罠が巧妙だったともいえるわけで、彼が愚かだったと決めつけることはできません。歴史における人物評価のむずかしさについて考えさせられる人物です。
・キケロ
ローマ一の文人であるキケロの弟にあたる人物です。彼もまたカエサルの有能な副官で、特にネルウィイ族に冬営地を襲われたときの粘り強い戦いぶりが記憶に残ります。火のついた槍が降りそそぎ、ローマ軍と同じ攻城兵器で攻め立てられても耐え抜いたキケロは、ローマ軍の頑強さの象徴でもあります。一方で、『ガリア戦記』には書かれていませんが、キケロには陣中で悲劇を執筆する一面もありました。兄と同じく、彼には文人の血も流れていたようです。
・アンビオリクス
ガリア人はなんとなく「蛮族」のような印象がありますが、アンビオリクスの活躍はこの印象をくつがえすものです。彼はガリア人屈指の策士で、ローマ軍を罠にかけ大打撃を与えることに成功しています。高い知性の持ち主ですが、ガリア人の立場からすると策を使わなければ勝てなかった、とも言えるでしょう。当時世界最強だったローマ軍と正面から戦うわけにはいかないからです。悪運の強さも特徴で、カエサルが力を尽くして捜索したにもかかわらず、結局アンビオリクスを見つけることはできませんでした。
ガリア人最後のリーダーで、『ガリア戦記』七巻の主人公ともいえる人物です。一度だけですが、カエサルに勝ったガリア人はこの人だけです。反ローマを掲げて一度は故郷ゲルゴウィアから追われるなど「追放物の主人公」でもあり、逆らうものには拷問を加え、アレシアに籠城しているときは食料を節約するため戦えないものを追い出すなど、かなり強烈な印象を残す人物です。この容赦のなさが、カエサルと戦うためには必要とされたのでしょう。実際、彼は戦時のリーダーとしてはかなり有能でした。ウェルキンゲトリクスのもとに数多くのガリア人が集結したのは彼のカリスマ性のなせる業でしょうが、カエサルが多くのガリアの部族を粉砕した結果、ガリア人の反ローマ感情が高まり、ウェルキンゲトリクスをカリスマの地位に押し上げたという面もありそうです。
・コンミウス
カエサルによりアトレバテス族の王に据えられた人物で、「勇敢にして思慮に富む」と評価されています。ブリタンニア遠征ではカエサルを補佐していましたが、アレシアの戦いではウェルキンゲトリクス側につきました。コンミウスはこの戦いの後もベッロウァキ族と組んでローマ軍と戦い、敗北したのちも盗賊になって食料を略奪するなど、しつこくローマを悩ませ続けました。よほど厄介な相手だったのか、ラビエヌスは彼の暗殺すらたくらむほどでした。最終的にアントニウス(後のクレオパトラの恋人)が彼にどう対処するかは、八巻を読むとわかります。
知っておきたい軍事知識
ローマ軍の装備や攻城兵器などを細かく解説しているときりがないので、ここではローマ軍団の構成についてだけ書いておきます。ローマ軍の最小単位は百人隊(ケントゥリア)で、百人隊長が率います。百人隊が二個集まると中隊(マニプルス)となり、中隊が三個集まると大隊(コホルス)になります。そして大隊が十個集まると一個軍団となります。なので数字の上では一個軍団は6,000人ですが、実際には百人隊の人数が100人いるとは限らず、軍団の兵士が6,000人に満たないこともよくあるので、あくまで大体の数字です。これがわかれば、「カエサルが六個軍団でアルウェルニ族の町ゲルゴウィアをめざした」と書かれている場合、大体36,000人くらいだな、と規模感を想像することができます。岩波文庫の訳だと「コホルス」「マニプルス」などのラテン語がそのまま出てくるので、コホルス(大隊)=600人、マニプルス(中隊)=200人と知っておけば読みやすくなります。
八巻は読むべきか?
『ガリア戦記』のうち、カエサル自身が書いたのは七巻までです。岩波文庫版『ガリア戦記』は七巻までで終わっていて、これ以降は読めません。なので七巻まで読めば『ガリア戦記』を読了したことにしてもいいかと思います。ただ、もし八巻が載っている訳本を持っているなら、ここを読まないのはもったいないかもしれません。七巻のアレシアの戦いほどの大規模な戦いこそないものの、八巻では七巻まであまり出てこなかったベッロウァキ族との戦闘の様子がくわしく書かれており、アトレバテス族の王コンミウスとローマの騎兵隊長ウォルセヌスとの因縁の対決など、小説的に面白い場面もあります。加えて、この巻ではカエサルが占領した都市ウクセッロドゥヌムで、武器を取ったもの全員の両手を切り落とす描写があります。敵には寛大だったとされるカエサルにも、このような一面がありました。この箇所は、著者がカエサル自身ではないからこそ書けたのかもしれません。このように、七巻までとはまた違う内容を持つ八巻にも、独自の魅力があるのです。
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