長谷川 拓也・安藤 健太郎・水野 恵介
(海洋研究開発機構)
&
Roger Lukas
(ハワイ州立大学)
パプアニューギニア沖沿岸湧昇と
ビスマルク海の表層流速場
Blue Earth ’10, 2010年3月3日東京品川
背景:エルニーニョに関係する過去の研究
# エルニーニョ現象:
・熱帯太平洋で卓越する大規模大気海洋相互作用現象 (e.g., Bjerknes 1966)
・熱帯のみならず日本を含む中高緯度の気候変動に影響 (e.g. Glantz 2001)
  →発生メカニズムの理解・予測精度の向上が望まれる
# エルニーニョ発生:
 ・西部赤道太平洋の西風バーストによる暖水プール東進 (e.g., McPhaden 2003)
・西部赤道太平洋の大気海洋変動はエルニーニョ発生に重要であるが、
 この海域の大気海洋変動特性には、不明な点が多く残されている
暖水プール
東進
エルニーニョ
発生
西風
赤道
動機:
パプアニューギニア沖沿岸湧昇がエルニーニョ発生に果たす役割の解明
パプアニューギニア
背景:パプアニューギニア沖沿岸湧昇
パプアニューギニア沖沿岸湧昇が発生
    →暖水プール西側で海面水温低下を導く
西部赤道太平洋
中部/東部赤道太平洋
沿岸湧昇の存在
(e.g., Lukas1988; Ueki et al. 2003)
→海面水温低下が期待されるが、
 研究例が無い
目的:
(1) エルニーニョ発生前にPNG沖沿岸湧昇が存在していることの確認
(2) 沿岸湧昇が暖水プール西側の海面水温低下に果たす役割の解明
(3) 西風強化への影響の調査
西風
パプアニューギニア
(PNG)
エルニーニョ
発生
暖水プール
東進
ビスマルク海
データセット
■ 船舶観測データ
・R/V「かいよう」: PNG沖海洋観測データ(水温・流速)
   (e.g., Kuroda et al. 1996; Kashino et al. 1996; Ueki et al. 2003)
■ 高分解能衛星データ
 ・海面水温: TRMM/MI(TMI), 0.25°x0.25°水平格子
 ・海上風: QuikSCAT, 0.5°x0.5°水平格子
■ 高解像度海洋大循環モデル(OFES: OGCM For Earth Simulator)
 ・過去再現実験出力 (Masumoto et al. 2004; Sasaki et al. 2008) 
 ・3日スナップショット(1949年∼2005年)、全球(0.1°x0.1°水平格子)
観測データが充実している期間(1999年以降)に発生した
2002/03年エルニーニョの発生前状況に着目したケーススタディ
パプアニューギニア沖の沿岸湧昇と低海面水温
岸 赤道
CTD観測点
28˚C
2002/03年エルニーニョ発生前:
PNG沖沿岸湧昇・低海面水温が沿岸域に存在
岸に向かって浅くなる
「かいよう」CTD観測表層水温断面図
80m
20m
R/V「かいよう」による海洋観測ライン
2001年12月21日-23日 (KY0111航海)
同時期の衛星観測海面水温
沿岸湧昇海域の水温:
 周辺海域より低温
沿岸湧昇の特徴を示す構造
-結果-
緯度
深度(m)
PNG
PNG
衛星観測海面水温
低海面水温域:
 沿岸域から西部赤道太平洋へ向かって北東方向に拡大
低海面水温域の拡大
2001年12月20日 
2002年 1月10日 
2001年12月30日 
[℃]
R/V「かいよう」ADCP (Acoustic Doppler Current Profiler)観測水平流速
(30−40m深平均: 2001年12月21 22日)
沖:北東向き流速
ビスマルク海表層流速(船舶観測)
赤道域に向かう北東向きの表層流速によって冷水輸送
衛星観測海面水温(再掲)
岸:南東向き流速
ビスマルク海
PNG
PNG
長期平均:
岸から赤道向きの流れが弱い
冷水域が赤道方向に拡大せず
長期平均
PNG湧昇期間
      PNG沿岸湧昇期間:
・南東流(PNG北岸)
・北東流(PNG南岸)
 →北東流(冷水を赤道域へ輸送)
・ビスマルク海東部の時計回り循環
 (PNG南岸の北東流と関係)
・西部赤道太平洋海洋における
 表層混合層水温の低下の約30%
を担う
ビスマルク海で複雑な表層流速場によって冷水が輸送
→西部赤道太平洋の冷却に奇与
(上) 2.5m深度のOFES水温(カラー)・水平流速 (黒矢印)の湧昇期間(2001年12月20日から2002年1月20日)の平均値
(下) 同上、ただし、12月・1月の気候値(1981年から2005年の長期平均)
ビスマルク海表層流速(数値モデル)
ビスマルク海東部
東西差:正
(東西勾配:正)
西風
西風強化との関係
2001年11月 2002年1月
2002/03年エルニーニョ発生前:
  海面水温の東西差(東西勾配):正
→西風:強
  海面水温東西勾配(正)
→海面気圧東西勾配(負)
→西風強化
(e.g., Kessler&Kleeman 2000)
西部赤道太平洋における東西風(m/s)
(140-160E平均;正が西風)
暖
西部赤道太平洋における海面水温の東西差(℃)
(150-160E平均 - 140-150E平均)
冷
西風強化を励起
理論・大気モデル(過去の研究)
 PNG沿岸湧昇時期における観測結果
まとめ
冷水域拡大
 ●PNG沿岸湧昇に着目した西部赤道太平洋の新たな冷却メカニズム
 ●西風強化・エルニーニョ発生に関与する新たなプロセス
海面水温冷却
<暖水プール西側>
海面水温東西勾配(正)
& 西風強化
本研究:
Hasegawa et al. (2009)
他、2編改訂中・投稿中
エルニーニョ発生
暖水プール
東進
展望:
 ●観測の継続・新たな観測の実施によって、海洋変動メカニズムのさらなる理解
 ●エルニーニョ発生メカニズムのより深い理解・予測精度向上(科学的・社会的貢献)
 ●エルニーニョ・温暖化予測モデルの改善にも寄与
PNG
ビスマルク海
謝辞
本研究で用いた、CTDデータおよびADCPデータは、観測船「かいよう」によって
取得されました。 また、OFES過去再現実験は地球シミュレータによって計算さ
れました。この場をお借りして、関係者の皆様に対して謝意を表します。
END
2009/10エルニーニョ発生前(2009年3月21日)
TMI-SST
 QSCAT-wind
(EQ, 147˚E)TRITON係留ブイ海洋観測データ(水温・流速・気象)
を用いた熱収支解析(日データ)
東西熱移流(東向流と関係):タイミング一致 & 冷却効果(大)
東西熱移流による変化率
-0.7℃
正味海面熱フラックスによる変化率
混合層水温
混合層水温変化率
東西熱移流: 50%説明
パプアニューギニア
熱収支解析結果
TRITON係留ブイデータによる混合層熱収支解析
TRITONブイ
[℃][℃]
混合層水温
各熱収支項を時間積分
混合層水温
正味海面
熱フラックス
東西
熱移流
南北
熱移流
残差
東西熱移流
1JAN
2002
沿岸湧昇発生時期
低下
月平均海面水温分布
(NOAA OI-SST)
1981年
12月
1997年
3月
2001年
12月
パプアニューギニア北岸沿い:
低海面水温
パプアニューギニア
1982/83年エルニーニョ
1997/98年エルニーニョ
2002/03年エルニーニョ
複数のエルニーニョ発生前に
パプアニューギニア北岸に沿
岸湧昇・低海面水温が見られる
OFES過去再現実験結果(1981年から
2005年)でも確認(水温・流速・熱収支)
2002/03年エルニーニョ以外のエルニーニョ発生前について
[℃]
[℃]
[℃]
OFES:水温変化へのインパクト
沿岸湧昇域からの冷水によって、赤道域の貯熱量(OHC)が冷却
水平熱輸送による水温変化(湧昇期間で平均)
パプアニューギニア
R/V「かいよう」ADCP観測流速場(30−40m深平均)
(13-23 December 2001)
沿岸域と赤道域のコネクション(船舶ADCP観測)
沿岸域から赤道域に向かう北東方向の表層流
1.0 [m/s]
OFES水平流速・海面水温
ビスマルク海;循環場→沿岸湧昇域の北東向き流速場と関係
沿岸湧昇域の北側:南東向き流速場
沿岸湧昇域の南側:北東向き流速場
ビスマルク海
パプアニューギニア
沿岸湧昇に関係する
  低海面水温
OFES水温(カラー)・水平流速(矢印)、2.5m深度
2001年12月20日から2002年1月20日の平均場
赤道向き流速(冷水輸送)
140˚E
142˚E (CTD観測と同じ経度)
144˚E
OFES水温断面図
142˚E: 観測と一致、沿岸湧昇の特徴を示す
(OFES: 再現性良い)
140˚E, 144˚E: 142˚Eと同様に沿岸湧昇を示す
140˚E 142˚E 144˚E
パプアニューギニア沖の広い範囲:
沿岸湧昇発生
水温断面図(OFES実験結果).
2001年12月21-23日
岸に向かって浅くなる
エルニーニョ発生年:低海面水温が赤道付近に発達・
             :北西風(モンスーン+西風バースト)が発達
1981年から2005年にかけての合成図解析
海面水温 海面風応力
6例のエルニーニョ発生年の1月
エルニーニョ非発生年の1月
差(a-b)
6例のエルニーニョ発生年の1月
エルニーニョ非発生年の1月
差(a-b)
北西風→沿岸湧昇を導く
大気海洋相互作用の可能性(西風→沿岸湧昇→海面水温東西勾配→西風)

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