2017/12/22 - Data Engineering and Data Analysis Workshop #3
CyberAgent, Inc. All Rights Reserved
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いじめられた⼦供を⽀援する
仮想世界ピグパーティの
コミュニケーション
⾼野雅典
株式会社サイバーエージェント
技術本部 秋葉原ラボ
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⾼野 雅典(データマイニングエンジニア/@mtknnktm)
●仕事: サイバーエージェントの⾃社メディア・ゲームの
データ分析関連もろもろ + 研究
その前はシステムエンジニア@前職SIer、JavaScriptエンジニア@CyberAgent
学⽣時代の専⾨は 複雑系・⼈⼯⽣命。博⼠(情報科学)
●研究の興味: 協調⾏動・社会的知性
●所属 秋葉原ラボ: メディアサービスのデータ関連R&D組織
- Publication List: https://www.cyberagent.co.jp/techinfo/labo/research_list/
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サイバーエージェン
トで社会科学の研究
をしている動機
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• ⾮常に多くの⼈がWebを利⽤
・Facebookの⽉間アクティブユーザは20億⼈
(全⼈類の30%弱!)
• Webでは様々な社会現象が発⽣
・時空間制約の弱い社会関係
・情報カスケード、バースト、炎上
・未成年事犯
etc.
• “Web社会” の現象を科学する必要性
Web社会の科学
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• コミュニケーション・交流
・アメーバピグ、タップル、ソーシャルゲーム
• 情報メディア
・AbemaTV、アメーバブログ、新R25
サイバーエージェントのメディア・ゲーム事業
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サイバーエージェントはWebという世界で
ビジネスをしている会社
・弊社のサービスが社会に与える影響
・弊社/他社のサービス上での社会問題
・Web社会の課題解決・健全性維持
→ Web社会、Webと社会の理解が必要
直近で役⽴つというより、今後のWebの世界が良くなるための知
⾒発⾒を⽬標としています(主な成果は知⾒の共有(i.e. 論⽂出版))
Web社会の研究が活発になればWeb系企業もうれしい
サイバーエージェントと社会科学
2017/12/22 - Data Engineering and Data Analysis Workshop #3
CyberAgent, Inc. All Rights Reserved 7
いじめられた⼦供を⽀援する
仮想世界ピグパーティの
コミュニケーション
⾼野雅典
株式会社サイバーエージェント
技術本部 秋葉原ラボRef: ⾼野雅典, ⾓⽥孝昭,
“仮想社会におけるソーシャルサポート効果
の検証: ピグパーティにおけるいじめ相談”,
教育⼯学研究会, 2017.
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• 「いじめ」は被害者に⼤きなストレスを与える
・被害者に対する⽀援が必要
• 共感・尊敬の提供(ソーシャルサポート)
・ストレス軽減・⾃尊⼼の回復に有効
・⾃傷・⾃殺⾏為リスクを減らすことができる
・実世界への⾃信回復や社会復帰にも繋がる
• Webでのコミュニケーションでも効果を発揮
・オフラインでのコミュニケーションに⽐べて
・匿名性が⾼いので気軽に話しやすい・センシティブな話がしやすい
・時間や場所の制約が弱く⼿軽である
・⼀⽅で、テキストが中⼼なので効果が弱い傾向
はじめに
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• マイノリティが匿名のネット空間で仲間を発⾒
実⽣活でも⾃信を持てるようになる(カミングアウト等)
McKenna et al., “Coming out in the age of the Internet: Identity ”demarginalization“ through virtual group participation”,
Journal of Personality and Social Psychology, Vol. 75(3), Sep 1998, 681-694.
• インターネット使⽤によって中学⽣の孤独感を軽減させ、
実⽣活の友⼈からのソーシャルサポートを増加させる
安藤 et al., “インターネット使⽤が中学⽣の孤独感・ソーシャルサポートに与える影響”, パーソナリティ研究, Vol. 14, No. 1, 2006.
• MMO-RPGの利⽤による(実⽣活の)シャイネス改善の試み
⽥島, "オンラインゲームでの社会的相互作⽤がシャイネスに及ぼす影響", 御茶ノ⽔⼤学博⼠論⽂, 2016.
• ソーシャルネットワークの交流は友⼈の死の痛みを
和らげる(Facebookの研究)
Hobbos & Burke, "Connective recovery in social networks after the death of a friend", Nature Human Behaviour, 2017.
インターネットのソーシャルサポート
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ネットと相談: RedditとLINE
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• ピグパーティ
・仮想世界のアバターチャットサービス
・iOS, Androidで利⽤可能
・若年層の利⽤者が多い
• 悩み相談をしているユーザがいる
・いじめられている
・将来・受験
・友⼈関係
⾏動ログ分析・ユーザインタビューより
• 実⽣活とは異なる別の世界
・実⽣活とは別の⼈間関係・⾒た⽬
↔ FacebookやLINEは現実の拡張
・仮想社会「ピグパーティ」で
実⽣活の社会関係を補間できないか?
ピグパーティによるリアルの補間
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• 「現実世界のいじめ相談」の効果と理由を知る
・仮想社会で「いじめ」相談すること/されるこ
とはユーザにとっていいことなのか?
・(いいことであれば)だれにどのような相談を
することが効果的のか?
• いじめ相談データ
・2017/6/13〜19の1週間の会話データから抽出
・86⼈の相談者
※ 本研究で⽰すデータは会話データの統計処理の結果であり個⼈を
特定可能なものではない。
⽬的
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ピグパーティのルームといじめ相談件数
パブリックルーム
• 広い・⾃由に出⼊り
• ⼤⼈数・初対⾯中⼼
• いじめ相談: 3件
テンポラリルーム
• 狭い・⾃由に出⼊り・
2時間で消える
• ⼤⼈数・初対⾯中⼼
• いじめ相談: 42件
プライベートルーム
• 狭い・出⼊りは制限
• 少⼈数・友⼈中⼼
• いじめ相談: 38件
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ピグパーティのルームといじめ相談件数
パブリックルーム
• 広い・⾃由に出⼊り
• ⼤⼈数・初対⾯中⼼
• いじめ相談: 3件
テンポラリルーム
• 狭い・⾃由に出⼊り・
2時間で消える
• ⼤⼈数・初対⾯中⼼
• いじめ相談: 42件
プライベートルーム
• 狭い・出⼊りは制限
• 少⼈数・友⼈中⼼
• いじめ相談: 38件
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• 普段の会話(普通のユーザとの⽐較)
・傾向が⾒られない
・個⼈の分散が⼤きくデータが少ないため
→ データを増やして再検討が必要
• 普段の⾏動時間(普通のユーザとの⽐較)
・基本的にアクティブな傾向
・平⽇深夜に特にアクティブ
相談者はどういうユーザーか?
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• 仮説: 「いじめについて相談した」ことが、ユーザにとってのソーシャル・サポ
ートになっている
→ よりピグパーティを使うはず
• 仮説: 「いじめについて相談された」ことが、ユーザにとって良い体験である
→ よりピグパーティを使うはず
→ 相談したこと・相談されたことが翌週ログイン⽇数に与える影響を分析
• モデル
どのルームで相談した/されたら、
翌週も利⽤しやすいか?
いじめ相談の効果: 仮説・モデル
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• 結果
・相談したユーザ: 少⼈数の友⼈と相談すると効果あり
・相談にのったユーザ: 相⼿によらず効果あり
いじめ相談の効果: 結果
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• ⽬的
・どんな相談が⾏われているのか?
・プライベートルームとテンポラリルームで何が違うのか?
• アプローチ
・「いじめ相談の会話」× {プライベートルーム, テンポラリルーム}
と「通常の会話」を⽐較する
・具体的にはトピックモデル(LDA)を作って出現頻度を⽐較
• 会話の定義
・いじめ相談の会話
・”いじめ|イジメ|虐め|苛め” が含まれる発⾔前後15分の同じ部屋の発⾔
(30分以内に複数発話された場合は統合する)
・通常の会話
・ランダムに選択した発⾔から前後15分の同じ部屋の発⾔
相談内容の分析
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相談内容の分析: 代表的なトピック
プライベートルーム テンポラリルーム
テンポラリルームは初対面であることが多い。
そのため自己紹介的な会話が多い。
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相談内容の分析: 代表的なトピック
プライベートルーム テンポラリルーム
いじめトピックは8割以上の
「いじめ相談会話」に登場
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• プライベートルーム
・ネガティブな感情や⾏動・家族に関すること
に関する⾔及が多い。i.e., 踏み込んだ内容・⾃⼰開⽰的
• テンポラリルーム
・⼩学校、制服、殴る、リーダー、天候
などの説明的
相談内容: プライベートルームとテンポラリルームの違い
• いじめに関する話題はほとんど1つのトピック
・プライベートルームとテンポラリルームでいじめトピックの単語をPMIで⽐較
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• 平⽇の昼に多い(データの期間は6⽉半ばなので授業のある期間)
→ 不登校を⽰唆。
→「不登校→いじめられてる?→相談」という
きっかけになりやすい
いつ「いじめの相談」がされているか?
Weekday Weekend
0 5 10 15 20 0 5 10 15 20
0
2
4
6
8
Time
Frequency
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• 相談効果はあった
・それは友⼈と閉じた場でプライベートなことを話し合うことだった
・相談される側とってもいい体験
→ 相談者とのマッチングは双⽅にとって嬉しいはず
• 相談する⼈は全体的な平均よりもアクティブ
・⾃傷⾏動をFlickrで公開する⼈はコミュニケーションを
求めている状態だった [Wang2017]
・情動の表出、self-esteem(⾃尊⼼)の充⾜
・ピグパでも類似の状態だったと思われ、効果の有った相談内容は
⾃⼰開⽰的な内容だった
• 相談者は平⽇の深夜に活動的
・リスカ画像投稿は深夜に多い[Wang2017]
・ウツと不眠の関係[LustbergI2000]
・精神的健康でないと不規則な睡眠になる[Sano2016]
• 相談は平⽇の昼が多かった
・本来ならば学校に⾏っているはずなので、それがわかるからではないか
議論
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• 場の提供
・相談しやすい場、⾃⼰開⽰しやすい場の開発
・無理のない「きっかけ」が重要
・初対⾯での相談をより効果的に
• 相談・被相談者のマッチング
・相談を必要としているユーザの検出
・相談にのりたい・得意なユーザの検出
→ データを増やして分析・分類器の開発
• ⾮常に深刻なユーザへの対応
・カウンセラーなどの専⾨家による直接的な介⼊など
今後
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• 座間市の事件
・「⾃殺をしたい」発⾔ユーザに対する悪意があるアプローチ
• 「まっとうな相談」の窓⼝を公式に提供できれば、悪意あるユ
ーザという⼼配をしなくても相談ができる
・LINEの事例を⾒ても、ユーザに取って親和性の⾼いツールで
提供することが重要
• 「まっとうな相談」の内容・アプローチ・被相談者の属性を知
ることができれば、ネットリテラシー教育や啓蒙活動に活かせ
るかもしれない
・善意がありまっとうに相談できるユーザも増やしていきたい
• 参考: 座間市における事件の再発防⽌に関する関係閣僚会議
・https://www.kantei.go.jp/jp/singi/zamashi_jiken/
「深刻な悩みの相談」の分析
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座間市における事件の再発防⽌に関する関係閣僚会議
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/zamashi_jiken/
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おわりに
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KGI・KPIに直接寄与しない ”研究” の意義
サービスがユーザに
提供する価値
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KGI・KPIに直接寄与しない ”研究” の意義
サービスがユーザに
提供する価値
新たな価値の
発⾒・創出
に
をして、
サービスの価値を
⾼めること
研究によって
発⾒/創出された
価値
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KGI・KPIに直接寄与しない ”研究” の意義
ピグパがユーザに
提供する価値
かわいい
着飾りカスタマイズ
楽しいコミュニケーション
いろいろな⼈との
出会い
気の合う友達 お部屋の
飾り付け
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KGI・KPIに直接寄与しない ”研究” の意義
ピグパがユーザに
提供する価値
かわいい
着飾りカスタマイズ
楽しいコミュニケーション
いろいろな⼈との
出会い
気の合う友達 お部屋の
飾り付け
悩みの告⽩
共感
尊敬
カウンセリング
付加価値の
発⾒・創出

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